2023.4.14
2023.4.14
Kengo Kajita
「え、ちょっと待ってください。WBCの予選って台中でもやるんですか?」
香港のHalfway Coffeeでの朝食後、一緒にいた加藤さんからの突然の情報に思わずそう聞き返すと、僕は慌ててスマートフォンを取り出しました。
3月上旬、大谷翔平選手やダルビッシュ有選手らが、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)出場のために続々とナショナルチームに集まっているニュースが、連日飛び交っていました。
特に野球に関心があるわけではない僕も、今年のWBCは凄いことになりそう、という予感めいたものを感じていました。
国内の観戦チケットは高倍率で完売だったようですが、まさか自分が観に行くとも思わず、特にチケットについて調べたこともありませんでした。
Googleの検索結果を見ると、たしかにWBCの予選には、日本ラウンドと台湾ラウンドがありました。その勝者がアメリカで開催される決勝に駒を進める仕組みで、台湾ラウンドの開催地は台中。チケットも残っていました。

その時、不意に僕の脳裏に、異国の地のスタジアムで仲間たちと一緒に、代表チームを応援している自分の姿が、蜃気楼のように立ち上がってきました。
そして気づいた時には、見えない力に導かれ、3月8日 午後7時プレイボールの「チャイニーズ・タイペイ vs パナマ」戦のチケット決済をしていたのです。
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遡ること4か月前、2022年11月に僕は台湾を訪れていました。
台湾に、「お客様が、自分たちの手で自分たちの身につけるジュエリーを手づくりする」体験型ワークショップサービスを展開するアイデアは、僕と、シンガポール事業のパートナーである藤森さんの間で、数年間温めていた計画のひとつでした。
台湾に先んじてシンガポールでは、2021年に同様のコンセプトのKOBO JEWELLERYというサービスを立ち上げ、コロナ禍にも関わらず人気を博していました。

地金を叩いて、曲げて、くっつけて、好きなテクスチャや刻印を自由にアレンジできるKOBOは、新しい時代のジュエリーの楽しみ方として、特に若い世代に受け入れられている手応えがありました。
そしてコロナが落ち着いて自由に海外に往来できるようになり、次の一手として、台湾進出を見据えたリサーチに向かったのです。

本場の小籠包の味もリサーチ
3日間の旅程で台湾の北から南、つまり台北、台南、台中、そして台湾のシリコンバレーとも言われている新竹を巡る弾丸ツアーを敢行しました。
ビジネスの視点で言えば、台北は圧倒的に大都市で、商圏としても大きく、他の選択肢はないように見えました。日本のジュエリーブランドも、台北にはいくつか軒を連ねていました。
けれど、台中には、台北にない風通しの良さ、たとえて言うならサンディエゴのような、あるいは日本で言えば熊本のような、街としての先天的な明るさがありました。なにか新しいことが生まれそうな予感が、街のそこかしこに満ちていました。
短い探索期間でしたが、街の魅力やポテンシャル、何より自分たちらしい等身大のお店が出来そうということで、僕たちの出店候補地は、いつしか台中一択になっていたのです。

台中の空の青さと道幅の広さ、街路樹の多さにもカリフォルニア感があります
それからの数ヶ月間は、「来年3月にアトリエオープン!」と言う掛け声のもと、年末年始を挟んで急速に準備を進めていきました。
台湾サイドで事業に参画してくれる2人の若者と、何度も何度もリモートでのやり取りを重ね、日本にも足を運んでもらい、どうにか3月7日にソフトローンチ(正式オープン前の仮営業)できる状態まで、持っていきました。
そして、いよいよ、香港ジュエリーショーが終わった翌日、僕は香港発台中行きのHK EXPRESSに飛び乗って、現地へと赴いたのです。
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香港からの機内と、台中国際空港から中心地に向かうバスの中では、早朝出発にも関わらず目が冴えていて、これから起きるであろうことにあれこれと思いを巡らせていました。
そもそも台中に滞在していたのは、リサーチで訪れた5時間ほどでした。
その後の物件探しは、現地の2人に任せていたので、アトリエを構えることになる物件は、zoomの画面越しに見たっきりです。果たして新しく工房を構えるのはどんな場所なのか。
明日からは、さっそく台湾に住む知り合いを招いて工房を初稼働するけど、もし準備が間に合わなかったらどうしよう。柄にもなくそんな不安がよぎりました。
今更、心配してもはじまらないのですが、長い香港フェア直後の疲れもあってか、バスに揺られているうちに軽い眩暈を覚えました。
そうこうしているうちにホテルに着き、日本から藤森さんも合流しました。
いざ物件の候補地に向かうと、そこには、

日光の注ぐ象徴的な大きな窓と、ジュエリー制作に十分なゆったりしたスペース。
工具などはまだ揃いきってはいませんが、ここで金属と向き合って、自分だけのジュエリーを作れるとしたら気持ちいいだろうなぁという空間が、そこにはありました。
家具の位置を動かしたり、新品の工具を並べ直したりと、一通りの準備を済ませ、アトリエの目の前の川沿いの遊歩道を歩いているうちに、僕たちはすでにこの選択が間違っていなかったという直感に包まれていました。

ついさっき初めて着いたばかりなのに、店を出たら、もうまた訪れたいという気持が芽生えていました。
渡航2回目にして、この街のことが大好きになった僕は、いつかきっと、この工房を目的地として台中を訪れる人が増える、そんな未来を夢想していました。
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3月8日、薄暮の空には満月がのぼり、台中インターコンチネンタルスタジアムは大歓声に包まれていました。

WBSC世界ランキング2位の台湾と、12位のパナマによる本拠地での第一戦。
台湾にとって負けられない、負けるはずのない試合です。
同行した台湾の若者たちは、生で野球観戦するのも初めてということで、ブルーとホワイトのメガホンを両手に応援団の発声に重ねて、選手たちに大きな声援を送ります。
僕たちミドルエイジ・ジャパニーズは、生ビールと唐揚げを両手に、ブルペンの控え投手並みに臨戦体制を整えます。
考えてみればコロナ後初めての野外でのスポーツ観戦。しかも大声を出せるという解放感にすっかりご満悦でした。

台湾の勝利を確信した笑顔
台湾で、地元の人たちと一緒に、日本人の僕たちが台湾の旗を掲げてチームを応援する。こんなに素敵なチームビルディングがあるでしょうか。
そう、4回表に試合が動くまでは、すべてが完璧だったのです。
パナマが打者一巡の猛攻で1イニングに一挙に5得点をあげると、試合は投手総崩れの乱打戦になりました。
そして、我らがチーム・チャイニーズ・タイペイはパナマを相手に、まさかの5-12という歴史的大敗。

眩しすぎるスタジアムの照明の下、飲みすぎた生ビール以上の苦味を口にして、僕たちはトボトボとホテルに向かうことになったのでした。
酔いがまわったせいか、名作スラムダンクで、王者、山王工業高校が負けた時に堂本監督が放った
「負けたことがある、というのがいつか大きな財産になる」
というフレーズを、なぜか何度も何度も頭の中で反芻していました。
さて、次のエピソードでは、台湾のジュエリー工房を一緒に立ち上げることになった2人のことをご紹介します。
-KK
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