2023.2.24
2023.2.24
Kengo Kajita

「ツーソンジェムショーに行くことの特別感」を行ったことがない人に説明するには、どうしたら良いのか、言葉を選ぶのにはいつも苦心します。
会社としてやっていることは、端的に言えば「商品の材料を買い付ける」ということなのですが、そこに出かける僕たちにとっては、それ以上の何かが、そこにはいつもあるからです。
言語化しようとすればするほど、するりと逃げてしまうようで、一言では言い表せない「何か」。僕たちがたどり着いたその「何か」の本質を、少しでもこの文章で伝えることができたら良いのですが。
これまでも「ツーソンって夏フェスみたいなものなんだよ」とか、「石好きのコミケだよ」とか色々言ってきました。
その場にいる人たちが、売り手も買い手もボランティアで手伝っている人たちも、みんな宝石が大好きで、全員がこのイベントを楽しもうとしている雰囲気は、他のどのジュエリー見本市とも違っていて、強い紫外線を含む晴天と祝祭的な雰囲気も相まってフェスティバルの様相を呈しているからです。

そもそもアリゾナ州ツーソンという辺鄙な場所に、わざわざ来ているという感覚があります。宝石に携わっていなかったら、まず訪れる機会が無い街です。ツーソン空港に降り立つ時、窓から見える街の景色の味気なさは、豪華絢爛な宝石のイメージとは対局にあります。

砂漠の中にサボテンが生えているだけの、観光地も見所もない街。MLBもNBAもない街。
そんな場所に突如として期間限定で現れるのが、ツーソンジェムショーなのです。元々は、ペリドットやクォーツなどの雑多な原石が、申し訳程度に産出されていたこの辺りで、ささやかなフリーマーケットとして始まったのがイベント発祥の起源と言われています。それがいつしか、世界に類を見ない宝石のイベントになっているということに、アメリカの自由さとスケールの大きさを感じます。
そんな場所に来ている人間は(自分も含めて)「なかなかのもの好きだな」という共通認識があります。ビジネス上の損得合理性だけで考えると、ツーソンでの仕入れは割に合いません。特に日本を含むアジアから出かけるには、時間とコストが掛かり過ぎます。
けれどあなたが、たとえば好きなミュージシャンのコンサートや宝塚歌劇団の公演やアイドルのファンミーティングに行くときに、それが合理的かどうかなんて考えますか?
話の通じるあの人を誘って、チケットを取り、行く前からセットリストを想像して。大筋の内容は分かっているし、そこに行けば見たいものがあることも予想できているんだけど、それでも新しい発見に期待する気持ち。推しのまだ見ぬ一面に出会えるかもしれないワクワク感。そこにいた人だけが目撃する、「現場」が放つ偶然の必然性。

大好きなミュージシャンの公演の前に、ふらりと立ち寄って食べたラーメンの味が忘れられなかったり、その日の夜、コンサートの内容を振り返って興奮する同志と夜更かしして語り合ったり。もしそんな思い出の集積が、僕たちの人生を少しずつ彩っているのだとしたら、きっとツーソンに行くのはそんな体験に似ているのかもしれないと思うのです。
ツーソン空港に降り立ち、レンタカーの馬鹿でかいミニバンに乗って、とにかくまずはタコスでお腹を満たすことにしました。
Googleマップで見つけた最寄りのタケリアは、着いてみるとフードトラック。
2733-2801 E Valencia Rd, Tucson, AZ

フードトラックにGoogleレビューがついていることなんて、日本ではまず見たことがないけれど、1年ぶりのアリゾナの乾いた空気の中で頬張るタコスは最高に美味しくて、翌日からの宝石との出会いを予見するかのようでした。
2023年のツーソンジェムショーは、まずはそんなふうに、タコスの味とともに記憶されていくことになりました。
-KK