2025.10.16
2025.10.16
Kengo Kajita
ブラジル・マインツアーの第一歩は、ミナス・ジェライス州にある小都市、
ゴベルナドール・バラダレスから始まった。
人口はおよそ28万人、日本でいえば秋田市ほどの規模の町。
1937年に当時の州知事バラダレスの名を冠して生まれたこの町は、カラーストーン愛好家の間では、"宝石の街"として知られ、多くのブラジル人宝石商が拠点を構えている。
この町には、リオ・デ・ジャネイロからベロ・オリゾンテへ、さらに国内線を乗り継ぎ、一日がかりの移動を経てようやく到着した。
翌朝、ホテルから貸し切りバスに乗り込み、目的地である「ゴルコンダ鉱山」へと向かう。片道およそ4時間の道のりだった。

かつては鉱物愛好家には堪らない、貴重なコレクションが沢山産まれたという
この鉱山が知られるようになったのは、1960年代。
当時コンピュータのコンデンサの材料として使われていた、マイカ(雲母)の採掘中に偶然宝石が発見されたことがきっかけだった。

今も地表に転がっているマイカ
自分の土地から文字通りお宝が産出されることを知った幸運なオーナーは、すぐに私財を投じて宝石ビジネスに乗り出した。
そして1980年代には、ゴルコンダ鉱山は、
ブラジル産ブルー・トルマリンの一大産地として名を馳せることになった。
現在では宝石品質の原石の産出がなくなり、商業的な採掘はほとんど行われておらず、オーナーの手によって細々と採掘が続けられている。
のどかな牧場地帯を抜けて、バスが止まったのは、西部劇にでも登場しそうな小屋の前だった。

「ここからはバスが入れない。丘を登るので、四輪駆動のピックアップに乗り換えてくれ」
ガイドの声に、一行は顔を見合わせた。
これだよ、まさに鉱山ツアーらしい幕開け!
けれど現実は思った以上にタフだった。
荒れた道を4WDで10分も進むと、車酔いでぐったりする者も。
僕もクラクラしながら、ようやくひらけた場所に出ると、そこには映画のセットのような鉱山口の設備が現れた。

そう、まさに『マインクラフト・ザ・ムービー』のオープニングシーンで、
名優ジャック・ブラックがツルハシを背負って飛び込んだ、あの入り口そのものだった。
この鉱山の特徴は、自分の足で坑道の入口から階段を降りていけること。

その上、寛大なオーナーから「自由に採掘して構わない」との許可を得ていたので、参加者全員が、賭け事を覚えたばかりの少年のような目をして壁面や足元をくまなくチェックする。

坑道は、人ひとりがやっと通れるほどの細道もあれば、地下鉄のトンネルのように広々とした空間もあり、まるでアリの巣のように部屋から部屋が連なり、奥へ奥へと迷い込みそうな複雑な構造だった。
工事灯の明かりを頼りに進むうち、壁がきらきらと光るエリアにたどり着いた。
驚くべきことに、そこでは横の石壁にはアクアマリン、足元にガーネット、そして頭上にはトルマリンの結晶が顔をのぞかせていた。


僕はそれまで、一つの空間にそれらの鉱物が共存しているなんて、想像したこともなかったので、その光景には衝撃を受けた。
考えてもみてほしい。
そもそも地中でのあらゆる好条件が重なって、
しかも長い年月をかけて、初めてこのような結晶が生まれるのだ。
そんな奇跡が、まさに目の前のこの場所で、
同時多発的に起きていたということだ。
商売柄、色々な宝石を手にしてきて、
「これは少し色が薄い」とか、「インクルージョンが目視できるレベルだ」とか、
よく人間風情が勝手なこと言ってきたもんだ。
ごめんなさい。本当に浅はかでした。
僕たちは、夢中で岩を掘り、鉱物を拾い上げ、時間を忘れて没頭した。
二時間後、ヘトヘトになって地上へ戻ったとき、湿った地底から乾いたブラジルの空の下へ出た瞬間に吸い込んだ空気は、どこか祝福されているようで心地よかった。
採掘を終えた僕たちは、泥だらけの顔で笑いながら、興奮気味に初めての鉱山体験を振り返った。足元には誰かが餌をあげているらしい猫が僕たちを出迎えてくれた。

その猫は、これまでの採掘者たちにもそうしてきたように
「何か掘り出し物でもあったかい」と、僕に静かに問いかけてくれているような気がした。
-KK