Kengo Kajita
2025年6月、ブラジル鉱山ツアーのラストを飾ったのは、パライバトルマリンの鉱山だった。
ICA(国際色石協会)のマインツアー、その最終目的地にして、僕が今回の旅への参加を決めた一番の理由でもある。
パライバトルマリンは、その類まれなネオンブルーの美しさから、1989年に宝石市場に登場して以来、一貫して高い人気を誇ってきた宝石だ。近年はその希少性がますます注目され、ヨーロッパの名だたるジュエリーメゾンでも取り扱われる機会が増えている。
KAJITAでは、この宝石の登場した当初から少しずつ買い集め、その後も継続的に仕入れを続けてきた。そのため、現在でも比較的安定してルースやジュエリーを提供できる体制を維持している。今後、この宝石がますます人気を集めていくことを考えると、その産地の現状を一度、自分の目で確かめておくことは決して無駄ではないと思った。
実際にブラジルまで赴いて、パライバトルマリン鉱山を訪れた日本人は、それほど多くはないだろう。その現場で何が起きているのかを知り、お客様に伝えることも、宝石商としての自分の役目ではないかと考えたのだ。

今回訪れたのは、ブラジル北東部、パライバ州に隣接するリオグランデ・ド・ノルテ州に位置するムルング鉱山である。
ガイドを務めてくれたブラジルのICAメンバーによれば、パライバ州では採掘権をめぐる紛争が長年続いているという。たとえ土地を所有していても、鉱物を採掘するためには政府の許可が必要であり、現在、商業的な採掘が行われている場所は非常に限られているとのことだった。

Natal, Rio Grande do Norte
私たち一行は、前日の夜、ブラジル北東部の海沿いのリゾート地、ナタルに宿を移していた。
そこから鉱山までは、バスで片道約4時間の道のりである。

Brazil Paraiba Mine
鉱山に到着すると、多くの従業員が出迎えてくれた。ムルング鉱山を運営するBrazil Paraiba Mineの社員のみなさんである。驚いたのは、地元の女性社員が多かったこと。『鉱山労働者』という言葉のもつイメージを覆された。

はじめに鉱山のオーナーから、地質調査の方法や実際の採掘工程について、詳しいプレゼンテーションを受けた。
その後、ツアーメンバーにはヘルメットと長靴が配られ、いよいよ鉱山の内部へと入っていくことになった。
ムルング鉱山では、地表に近いエリアでの採掘はすでに終了しているという。
現在、最も活発に採掘が行われている場所へ向かうには、手動式のエレベーターで地下約100mまで垂直に降りなければならない。

厳重なセキュリティのもとで管理されたエレベーターに乗り込み、ゆっくりと地下へ降りていく。
やがて採掘現場に到着すると、そこには想像していたよりもずっと広いトンネルの空間が広がっていた。

地下の空気は、地上よりもひんやりとしている。
案内に従って奥へと進んでいくと、壁のいたるところに直径5cmほどの穴が開けられているのが目に入った。
その穴に細長いロッド状の器具を差し込み、地中の様子を調べながら、その先にパライバトルマリンが存在するかどうかを見極めているのだという。
そして、ついに坑道の最深部へとたどり着いた。
そこには、白いペグマタイトの岩肌に抱かれるように、トルマリンの結晶が眠っていた。

Crystallized Tourmaline - Mulung Mine
はるか昔に地中で生まれた結晶がこの場所で、ひとりの日本人と出会うことを待ってくれていた。そんな気がして、胸の奥に迫るものがあった。
帰りは、来たときと同じエレベーターに乗り、約100mを上昇して地上へ戻った。
これまで地下100mまで一気に降りた経験などなかったので、再び地上に出たときには、自分の中で何かがそっくり入れ替わってしまったような、不思議な感覚が残った。
採掘現場から戻り、しばらく休憩した後は、カッティングと研磨の工場を見学させてもらった。

この鉱山の大きな特徴のひとつは、採掘から原石の選別(ソーティング)、カット、研磨に至るまでの工程を、同じ敷地内で行っていることだ。
ブラジルの鉱山には、採掘した原石をそのままオークションなどで販売するところも多い。一方、このBrazil Paraiba Mineでは、採掘から研磨までを一貫して管理し、宝石としての付加価値を自ら高めるビジネスモデルを採用している。もちろん、そのためには多くの従業員を雇用し、設備を維持しなければならない。
話を聞くと、採掘そのものは比較的安定しているものの、現在産出される原石は小粒のものが中心で、メレーサイズの宝石の生産と販売に力を入れているとのことだった。

美しい宝石を安定して市場に送り出すためには、採掘技術だけでなく、こうした経営面での工夫も欠かせないのだと感じた。
今回の鉱山見学を通じて、あらためて実感したことが二つある。
ひとつは、私たちが日々ジュエリーに仕立てている一石一石が、とてつもない時間と労力の上に存在しているということ。
そしてもうひとつは、美しい色を持ち、内包物の少ないパライバトルマリンが、いかに希少な存在であるかということだ。
パライバトルマリンは、近年、知名度と価格が大きく高まった宝石のひとつである。しかし、あらゆる宝石がそうであるように、その品質も価格も千差万別だ。いとも簡単に多くの人の心を奪う宝石だからこそ、購入にあたっては慎重に見極めるべきだと思う。
もし、この美しい宝石を自身のコレクションに加えてみたいと思われたなら、ぜひさまざまな石を見比べながら、ご自身にとっての運命の一石をじっくりと探してほしい。そして、ささやかながら、そのお手伝いをすることが、宝石商の役目だと思っている。
地中深くで結晶と向き合い、そこからひとつの宝石が生まれるまでの長い道のりを知った今回の旅は、僕にとって、宝石商としての仕事の意味に立ち戻る、大変有意義な機会となった。
-KK