2023.3.10
2023.3.10
Kengo Kajita

ツーソンの翌週、2月14日の夜11時をすこしまわった頃、僕は誰もいないアブダビ空港に降り立っていました。
ツーソン出張中にICA Japan Director就任が正式に決まり、ドバイで開催されるコングレス(国際会議)に出席することになったのです。
International Colored gemstone Association、通称ICAは世界中のカラーストーンを扱う業者のための団体で、宝石の産出国から販売サイドまで多様なメンバーが顔を揃えます。日本からは30社ほどが加盟しています。KAJITAもICA Japanの一員として2000年から参画しています。そして前任のDirectorからの推薦があり、今年から2年間、僕がその職務に就くことになったのです。
前々から打診はあったものの、正式に決まったのは突然のことだったので、大慌てでドバイ行きのチケットを探しました。
東京からドバイに行く際、一番スムーズなのは、直行便のエミレーツ航空を利用することです。僕も一度だけ利用したことがありますが、中東の航空会社らしいゴージャスな体験だったのを覚えています。ところが今回の日程では、いくら調べてもドバイ直行便のチケットが表示されません。ドバイ路線は非常に人気が高いようです。これは困ったとチケット比較サイトをあれこれ操作していると、同じ中東系の航空会社のエティハド航空でアブダビ空港に行き、そこから1時間バスに乗ってドバイに入るというルートがあることが分かってきました。こちらはチケットも安いし、どうやらまだ確保できそう。
アブダビとドバイの位置関係も当時はよくわかっていなかったのですが、日程も迫っているし、背に腹は変えられないということで、思いきってエアチケットを購入したのが、出発の一週間前のことでした。とりあえず着いてしまえば、どうにかなるだろうという気持ちでした。
初めてDirectorとして出席する国際会議。日本代表として行くのだと、気分もちょっと高揚していて、その時僕はドバイを少し甘く見ていたのかもしれません。

機内では事前にダウンロードしておいたNETFLIXのドラマやお気に入りのポッドキャスト番組などを楽しみつつ過ごしました。飛行時間は約11時間。決して広くない機内、アジア便に慣れた身としては、やや長く感じられました。
アブダビ国際空港は思ったよりこじんまりとしていました。以前に訪れたドバイ国際空港やドーハ・ハマド国際空港はだだっ広く、アジアとヨーロッパを繋ぐ中東のハブという印象だったのに対して、アブダビ空港は中部国際空港ぐらいのサイズ感です。空港設備は全体的に少し古びていました。

バスへの乗り継ぎ時間が30分しかなったので、急いでバス乗り場を探します。空港の外には沢山の未認可タクシードライバーがいて、僕の荷物を勝手に引こうとしてきます。

彼らを追い払いながら、いまいち矢印の指し示す方向が分かりにくい標識に従って歩いていくと、暗闇にポツリと停まる一台のバス。車体にはEtihad Shuttleの文字。
え?もしかして、これなのかな?確証が持てず心配になっていると、同じように荷物を引いてきた外国人と目が合いました。
「このバス、ドバイに行きますか?」
「たぶん」
どうやら相手のアブダビ経験値も僕と大差なさそうでした。ふたりでしばらく立ち尽くしていると、ドライバーらしき若者と、手にぐしゃぐしゃの紙を持ったおじさんが、ちょっと近所でも散歩するようにゆっくりと歩いてきました。手に持っているのは、どうやらバスの事前予約リストのようです。僕が名前を伝えると「カジータ?オーケーOK」と言って乱暴にボールペンで僕の名前の上に線を引っ張り、荷物をバスに積んでくれました。
座席について、長い飛行時間に耐えきれず瀕死状態になったアップルウォッチを見ると、すでに0時をまわっていました。(日本時間だと午前5時ごろ)
車内にWiFiの表示があるので接続してみましたが、一瞬で規定のデータ量を使い果たしたようで、すぐにエラー画面しか表示されなくなってしまいました。話し相手もなく、ネットを見ることもできず、仕方なくGoogle Maps上を進む青い丸をぼーっと眺めて過ごしました。
バスに揺られること1時間、ようやくドバイ・バス・ステーションに降り立ちました。降りると、今度は沢山の認可タクシードライバーが降車客を狙って近づいてきます。僕は一番最初に目があった男性にホテル名とクレジットカード払いの可否を尋ねると、問題ない、と答えたので、タクシーに乗り込みました。これでようやくホテルで身体を休められる、とホッとしていました。タクシーはネオンきらめく一直線のハイウェイを滑るように駆け抜け、15分ほどでホテルの車寄せに停車しました。
タクシーのドアを開けてくれたインド系のベルボーイは軽々と荷を下ろし「どこから来たの?」と僕に尋ねました。
「日本からだよ」
「日本か、フライト時間はどのぐらい?」
「11時間ぐらいだよ」
「そんなに遠いのか、日本はいい国らしいね。ゆっくり休んで」
「ありがとう」
旅の疲れも癒される、ささやかな現地でのやりとり。さあようやく長かった一日をおしまいにするぞ。
けれど、事はそううまくは運びませんでした。
フロントに着き、いざチェックインをしようとすると「申し訳ありませんが、お客さまの名前でご予約はいただいておりません」とフロントスタッフ。そんなはずないと僕は予約確定書を開いた携帯の画面を見せます。するとフロントスタッフはその丁寧な口調を変える事なく「お客さまのご予約されているホテルは同じ名前の別のホテルでございます」マジかよ!
ここは VOCO DUBAI HOTEL
僕が予約したのは VOCO BONNINGTON DUBAI HOTEL
まんまとタクシー運転手に別のホテルに連れて行かれたのでした。ちゃんと住所まで見せたのに!

仕方なく、再び重いラゲッジを転がして、先ほどのフレンドリーなベルボーイに別のタクシーに乗せてもらいました。何かを聞きたそうな目をする彼に、事態を説明するには疲れ切っていた僕は、ただ首を横に振ってみせました。
来た道を戻るようにして、(結局僕が予約していたホテルはドバイ・バス・ステーションから真逆方向だった)2時過ぎにホテルに着いた僕はヘトヘトに疲れきっていました。温かいシャワーでも浴びてすぐベッドに潜り込もう。明日の会議の集合時間は9時だから、今寝たらそれでも5~6時間くらいは眠れるはず、とようやく明日のスケジュールに思いを馳せようとしていたその時でした。
「大変申し訳ございません。お客さまに今ご用意できる部屋がありません」
「ホワット!?」
これには、僕も思わずカタカナでホワット!?と言わざるを得ませんでした。
部屋が完全に満室で今すぐ入れる部屋が無いと言うのです。事前にアーリーチェックインの予約をメールで連絡してコンファームされていたにもかかわらずです。いやいやそんなバカな、こんなに大きなホテルなんだから、全室空いてないなんてこと無いでしょと、僕は思わず日本語で呟いていました。
しかしながら、フロントスタッフは、大変申し訳ないが無いものは無いの一点張り。明らかにホテル側の手違いなので、謝罪の言葉はあるのですが、とはいえ午前2時のフロントマンにできることは無いようです。
「それで、どうすればいいんですか?」
「誰か他のゲストがチェックアウトしたら、すぐに清掃して部屋をご用意します」
「ああ、そうですか(溜息)」
「ただお客さま、他のゲストが何時にチェックアウトするのかは私どもには分かりかねます」
「・・・(そりゃそうだ)」
「よろしければ、あちらのソファでお待ちください」
押し問答をする元気もないうつろな顔の僕。誰かがチェックアウトした部屋って、シーツ替えても、ついさっきまでそのベッドで誰かが寝てたってこと?なんかいやだなぁ、などとモヤモヤしていましたが、指差された先のソファに身を沈めると、ここにたどり着くまでの疲れがドッと押し寄せてきて、気づいたらいつの間にか寝てしまっていました。
「お客さま、お部屋の準備が整いました」
ホテルマンに起こされて携帯の画面を見ると、いつの間にか朝6時になっていました。そしてようやくチェックインを完了した時には自宅を出てから、すでに24時間が経過していました。

一人で眠るには十分すぎる大きさのベッド。ああ、よかった。たどり着いた。
幸いにも大きめのバスタブがあったので、たっぷりとお湯を張り、風呂に浸かりました。
そして、これからのコングレスが、どうやら一筋縄ではいかなそうという波乱の予感が、全身に満ち満ちていくのを感じていました。
-KK
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